偽書
アイリッシュ・ウイスキーを飲みながら
わたしはにせの聖書を読んでいる
にせの中にも
ほんもの以上の
真実が書かれているんじゃないかと、
考えて
今日の祈りは、
失敗したような気がするが
錯覚でも、確かな声を聴きたいから
余白は残しておく
あずかっていた犬が死んだ
まるで看取るために
あずかったようなものだった
だが、感謝しよう
墓となるべき場所は決まっていた
それは、
庭のいちばん奥まったところ
行き止まりの特等地だ
食い意地の張ったかわいい老婆で
死ぬ直前まで、
旨いものだけは平らげて死んだ
賢い犬だった
気づいた者にだけ、奇跡はやってくる
言葉と暴力にくすぐられている、
世界を
いく度か、反芻する
余白の愛撫で殺してやるのだ
悪を想定できない血は、やがて滅びる
悪を想定せよ
殺しても殺しても
それは芽吹いてくるだろうが
観念的に死ぬなんて、まっぴらだ
毒麦のように繁茂する、
言葉を
言葉で、殺すことができなければ
血で血を洗う歴史も
終わることはないだろう
スタンザは残り少なく、時間もない
世界は、今日も陽気だ
世界は、犬が一瞥もくれない偽書だった