月桂樹
わたしの腕が、しがみついている木の枝には
たくさんの蟻が列をなしていた
甘いローリエの香りに酔いそうだった
梯子は役に立たなかった
冷たいぬくもり 硬い肌えのなかには
甘い香りの樹液が
幾すじもの支流となって流れているはずだった
木は刻まれた時を翻しながら、生長していく
葉はところどころ黄色く虫食い、ほころびながら
それでも容赦なくつづく雨からわたしを守り
そのなかに溢れてくる音で
わたしを満ち足りた気分にさせた
しがみついて昇っていくと
見えないものが せわしく羽ばたきながら
わたしの目前の一点に、静止しているようだった
小枝を掃いながら少しずつ昇っていこう
実際、暗くはないけれど
真下に見えるのは
疑いという唯一の誘惑が産み落とす闇だから
葉脈のように収束してゆく枝々の、
おのおのの交点から
放たれた重力のなかでやわらかく、純白となり
透明な樹液となって上昇していこう
わたしは、すっかり一本の木に包まれていた
刻まれた時をふたたび翻して
わたしは地面のある場所まで戻ってきた
見上げると、たかだか数メートルの月桂樹が
はるかな光のなかにさざめいていた