九七
黒い腐葉土の上に
消えかけた幻影が滲んでいる
おそらくは
半月ほど前に骸を破り
這い出でた
擬態する昆虫の栖
九八
羊歯や
枯死した植物群の陰から
鈍い陽光を反映する 泥と
水の基底
踏み入ることで深淵は
更に深さを増した
九九
降り懸かる慈雨に滲む
か細い翳
微細な蕊を伸ばし
叢生する
石蕗、薊、薺
忍冬、水引、犬蓼、弟切草
一〇〇
浄らかな鶇の死
空き瓶や潰れた錻力の
赤銅色に腐敗し
酸化してゆくすべての顕在を
掬い上げても
銘すべき応えはない
一〇一
冷たい諦念から芽生し
幾千の雨に濡れ
そして遂に咲かぬ
その栄辱は
現世の平板な諧謔や
的外れな讃美歌によって称えられ
一〇二
雲間から降りそそぐ
陽射しのように
解き明かすべき謎に犇めく
厖大な対句の内にある
それはいつも
遠ざかってゆくように見えた
クリスマスローズ(抜粋 97-102/108)
─ 詩集「クリスマスローズ」より ─