レモンの木



詩を書き出して 最初の会社を辞めたとき
偶然もらってきた苗木が
レモンだった
放っておいた苗木は
いつの間にか鉢ごと・・・ 庭に根づいたが
その後 幾度か移植を繰り返した

意識したわけでもないのに
不思議と時を同じくして
僕自身 仕事を変わったりした
めずらしくたくさんの実をつけた年もあったが
たしかにそれは
僕の人生とも
呼応しているかのようだった

この木のおかげで
夏になると
我が家の周りには いつも
揚羽蝶の姿が絶えない
レモンの木の枝には
畳針のように大きな棘が無数に隠されていて
これは
この木を好んで自生する揚羽の幼虫を
外敵から守る意味もあるのだろうが
幾度かうっかり
主の手を
傷つけることもあった
剪定者はけっして幼虫たちを
殺そうなどという気はないのに

いま 庭の南西で
大きく育ったレモンの木に
あれ以来 いっこうに実をつける気配はないけれど
しっかりと大地に根を張って
枝を広げ 葉を茂らせて
庭師の移植ぐせを拒んでいるようだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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