交差点
一九九二年の秋 目黒駅前の交差点で
ロシアのイコン展を観に行こうと
横断歩道の信号待ちをしていたわたしの目に
奇妙な光景が飛び込んできた
目前を横切って行く外国人の親子連れ
交差点の騒音と埃にまみれ 父親が自転車を押し
後部の荷台には 幼い男の子が乗せられ
その背中には なぜか 十字架が括りつけられていた
そして傍らに母親と もうひとり兄らしき男の子が
一緒に歩いている 秋だというのに
父親も 荷台の男の子も シャツ一枚
ゆっくりと今も わたしの目前を横切って行く