クロス
@ 遡行
遠く草原にひれ伏す影
そのような
生命は決して見ることはない
時折、死は
地殻のように瘧る
頭骨の描法に憑かれた手
百メートル進む度に
軌跡は撓み渦巻く
恍惚は
蒐集家が最も強く信奉する誤謬
滴る敬虔な歩調は
暗緑色の影を曳いて、
入り組んだ都市の果てに
立ち尽くす影
果ては、
中心に浮沈する教区の
境界線上に、トロッコを転がして
円環のレールにつづく
神話はなかった
闇のなかで、黒い恐怖となって眠る
この電子的メモは、
簡単に消去されてしまう
凍えた夢
白日の縹渺たる闇へ
真逆、
際、
色とりどりの
闇の構図
常套句の行き交うカフェ
不可思議な記号のざわめき
微かな吐息に紛れ
交差する影
あらゆる存在の反意として
行方には、
鋼鉄の
最後の一行から記す
ゆがんだ手
唾棄された一節の熱情は
緋の悲嘆を憚る
慈しみの言葉もなく
違われた修辞は疲弊し
微睡み、あるいは
目覚めたまま
何れも読書家の目の眩みに
影を落とすのみ
背理もなく
只管に交錯する地下の風
路上では
真昼間に投げ上げられた大道芸の
松明が旋回している
A 青銅の海
硫黄の匂いがするが、死の海ではない
干涸びた貯水池で、女は資料を拾い集めている、
酸化したバイブルサイズの紙片に
青錆びた刀身が顕れ、やがて
煌めく空、煤けた闇の奥から地平とともに
矢庭に立ち上がる、それが私だ
蔑む問い 謂われなき催告に拠り
私は大海を飲み干した(星辰は手中にある)
悉く緋の意志は潰え、形象は時に凍えている
あらゆるものが降下して行く気配
言語と言葉の迫間 意匠は創造に非ず、
時系列に並べられた問いを引き返すしかないのだと
死と再生の迫間 紺青の空と海洋の迫間、
すべての邦家、宰相は帰農せよ
B イコン
柔らかな乳呑児の背に
跪き、
詛いと契り
供託する痛みと
音
(灰のなかで、未だ火が燻っているようだ)
下草を踏む儀式、そのように
引きつづく闇の
静寂のなかの、沈黙の歩み
視界
螺旋の意味を問う 再びの
悔恨と、相反する暗喩の
そして不在、それぞれに辛うじて支えられた遊戯の
終焉、祈り
一つの断面があった
潰えぬ想い
放心したままの
人の背に交差するものが
展示室には
追憶と
焼け焦げたイコンの
充溢した闇が
轟音は静寂とともに
高架路上を併走し、逆走する
地下水路を循る
叫喚の
終息の意味を以て
抗わず
微笑の如く死が
敬虔な事実で有り得るなら
互いの瞑目に
再び凍え
赤銅色に濁った水流の
経路に沿って進む
弛まぬ再生の儀礼であれば
くぐもった声の
痕跡
閃く矩形も
瞼の残像に凝結する
乗合いのバスは
鈍色の光りに向かって走る